胃潰瘍 のお話

2017/09/04

 胃潰瘍とは、胃の壁の構造は5層構造(粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、筋層、漿膜層)をしておりますが、
その粘膜だけがえぐれている場合は胃びらんと呼ばれ、粘膜下層までえぐれてしまうと胃潰瘍と呼ばれます。
症状としては心窩部痛、嘔吐、吐き気、胸やけ、食思不振、貧血症状(出血が続き)、黒色便など様々です。
数十年前までは胃潰瘍や十二指腸潰瘍により手術をしていた時代もありましたが(穿孔などがあれば
現代でも手術する場合もあります。)近年の薬剤の進歩により潰瘍治癒は手術をおこなわなくても
得られるようになりましたが、再発を繰り返すことが多くありました。1990年代にはヘリコバクター
ピロリ菌の除菌をすると再発率が有意に低下することがわかり、その原因の多くがピロリ菌であることが
わかりました。また原因としてもう一つ頻度の高いものとしてはNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)が、
胃潰瘍の原因になっており腰痛等の筋骨格系の痛みや、発熱で解熱鎮痛剤を使用していらっしゃる方に
起こる潰瘍があります。最近ではドラッグストアでのNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)の購入も
ロキソプロフェンなどの商品として容易にできることからNSAIDs潰瘍の、今後の頻度の上昇には注意が
必要と想定はしております。またそのほか潰瘍の原因としては低用量アスピリンの内服や、クッシング潰瘍
(手術を受けるなど高ストレス下に置かれた際に発症する潰瘍)、カーリング潰瘍(広範囲のやけど等を
負ったときに発症する潰瘍)などもあります。胃の不調を感じた際にはご相談ください。
 それでは胃潰瘍、十二指腸潰瘍発生のメカニズムと近年の胃潰瘍患者さんの推移です。
胃潰瘍についてですがピロリ菌は、胃の中の尿素からアンモニアを作りますが、このアンモニアは
胃粘膜を傷つけて、さらにピロリ菌感染によって胃粘膜に有害な活性酸素が作られるようになったり、
ピロリ菌の出す毒素によって粘膜はさらに傷つき胃潰瘍が引き起こされると考えられております。
十二指腸潰瘍は胃酸の分泌が高い方に起こりやすいです。胃酸の分泌が高いと、十二指腸に胃の粘膜が
出来てきます(人間の防御反応)。ピロリ菌はその十二指腸に出来た胃の粘膜にもくっつき(ピロリ菌
は胃粘膜には住めるけれどもそのほかの腸管粘膜には住めない)、その粘膜を弱らせます。そして胃粘膜
に比べて酸に対する抵抗力が弱い十二指腸に胃酸が流れ込むと、その攻撃で十二指腸潰瘍ができると考え
られています。
 近年の胃潰瘍の罹患数(かかった患者さんの数)推移ですが1996年には92万人でありましたが
徐々に減少傾向を示し2008年には44万人にまで低下しました。それも衛生環境の改善による
ピロリ菌感染者数の低下によるものと思われております。潰瘍は胃カメラ(上部消化管内視鏡)や
バリウム検査で診断がつきます。既往歴のある方や症状のある方は是非ご相談ください。
 引き続き治療についてです。まずはヘリコバクターピロリ菌に感染性している胃での胃潰瘍は
2015年に改定の消化性潰瘍診療ガイドラインにおいてもヘリコバクターピロリ菌の除菌が
第1選択となっております。また現在の除菌治療では1次除菌においても80-90%の除菌率
はありますが、除菌できないことも10-20%あることより抗潰瘍薬であるPPI
(プロトンポンプ阻害薬)の維持療法も推奨されています。また十二指腸潰瘍でも同様にピロリ陽性
である場合には除菌治療が第1選択となります。またヘリコバクターピロリ陰性でNSAIDs潰瘍が原因と
思われる場合には、原因薬剤の中止と抗潰瘍薬であるPPI(プロトンポンプ阻害薬)の投与が望ましく
、NSAIDsを中止していれば再発のリスクも低いです。内視鏡治療の発展やピロリ菌の除菌による
再発率の低下などにより近年胃潰瘍・十二指腸潰瘍による死亡者数も減少傾向であり、
1950年代には胃潰瘍・十二指腸潰瘍での年間死者数は2万人にもいたのが、1990年には5千人、
2010年には3千人と著明な減少傾向ではありますが、それでも年間3千人も亡くなる方が
いらっしゃるというのはちょっと驚きですね。つつじヶ丘ホームドクタークリニックは胃潰瘍・
十二指腸潰瘍死亡0に向けて今後も診療し続けますのでよろしくお願いいたします。

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