過敏性腸症候群(IBS) のお話

2017/08/19

 過敏性腸症候群(IBS)は器質性や代謝性の消化管の病気を除外した機能の異常性疾患で、
腹痛や下痢、便秘、膨満感などの症状を長期間持続または繰り返して感じる疾患をいうことと
なっております。ややむつかしい言葉が並びましたが明らかな腫瘍とか潰瘍とか炎症がないにも
かかわらず腹痛、下痢、便秘などを感じる病気と言い換えることもできます。日本での有病率は
文献によっても差がありますが人口の約13~14%と言われていて、若年層に多く年齢ととも
に頻度が低下して、やや女性に多い疾患であります。12か月以上前からの症状で、直近の3か月間に
1、排便によって症状が改善する、2、排便回数の変化で始まる症状、3便性状の変化で始まる
症状のうちの2つを認めて、検査によっても腫瘍や潰瘍、炎症がないとわかると診断ができます。
便通のタイプによって下痢型、便秘型、混合型、分類不能型など分けられていて問診などにより
治療方法にもつながっていきます。 
 過敏性腸症候群はもちろんストレスが関与します!!実はこの現象は心理計量学的に
すでに証明されていることなのです。実験室で過敏性腸症候群の患者さんにストレス
を与えると、大腸内圧が変化したり大腸平滑筋の筋電図が、活発化することが証明されています。
(脳腸相関と呼ばれています。)現代人にストレスを感じないようにしてくだいさい、とお伝えしても
それでは治療になりませんので薬剤を使用していくことにはなりますが・・・
過敏性腸症候群の患者さんは、体の痛みや活力、生活機能、精神的機能、
心の健康などでいずれも健常者の方と比べて、生活の質が落ちているという研究結果があるようです。
胃腸の動きの問題である場合が多いため、過敏性腸症候群に効くお薬を複数試していき
症状を改善させていくことが肝要です、治療にも関連するのですが、過敏性腸症候群の患者さんの
大腸粘膜では、リンパ球が健常者の方よりも多かったりして免疫も一部関与していることもわかっています。
また腸内細菌が健常者と違うことがわかっているため便移植や、プロバイオティクスやグルテンフリー
にして治療をするという試みも(まだ確立していない部分もありますので注意)なされております。
今回は過敏性腸症候群の遺伝性と食事です。過敏性腸症候群には遺伝性があることがわかっております。
ある研究では過敏性腸症候群の一致率が2卵生双生児では約8%であるのに一卵性双生児では17%と
高く遺伝性が認められておりますのでご両親に過敏性腸症候群の方がいらっしゃる場合には
注意が必要ですね。また過敏性腸症候群の方におすすめの食事療法としては油脂、香辛料を減らして
繊維を多くとることが機能性消化管疾患ガイドラインにも載っており、海外では
発酵性、オリゴ糖、2糖類、単糖類を避ける食事が過敏性腸症候群に有効であるという
イギリスでの論文がありますので、参考にしてみるとよいかもしれませんね。
 過敏性腸症候群は飲酒との関連は、データ的にも証明されていてアルコールの多飲は、
増悪因子のようですので、過敏性腸症候群をお持ちの方は、飲酒はほどほどにしていただく
のがよいようです。またプロバイオティックスが多くの介入試験により有用であることが
証明されていてガイドライン上も推奨されております、プロバイオティクスの薬剤は安価
でもあることから医療経済的にもよいものと考えられます。また下痢型の過敏性腸症候群では
5-HT3拮抗薬(ラモセトロン)は有意に治療効果が証明されておりますので過敏性腸症候群で
お悩みの方はご相談ください。
 次に便秘型過敏性腸症候群の患者さんには5-HT4薬が有用であるという情報からです。
いずれも海外の論文ですが2つの無作為層別化試験でプラセボ(偽薬)を飲んだ群と比べて有意に、
腹痛や便秘が改善したという研究結果がでており便秘型の過敏性腸症候群の方には、
一般名モサプリドを使用するのがよいようです。
また比較的新しい薬ではありますが一般名ルビプロストンというお薬も便秘型の
過敏性腸症候群の方には、有用とされガイドラインでも推奨されているお薬があります。
作用機序としては小腸にあるクロライドチャネルを活性化して、腸管内に水分を引きつけて
硬い便を軟らかくして排便しやすくしてくれることや、膨満感なども低下させる効果が
あります。これからもさらに新薬が出ることを期待しながら、過敏性腸症候群の最新の治療
も混ぜながら診療させていただきます。
最後に過敏性腸症候群の方に高分子重合体・食物繊維は有効であることは科学的に
証明されていて、プラセボ(偽薬)を飲んだ群と繊維をとった群では、繊維をとった群がより
過敏性腸症候群(IBS)の症状に効果的であったという論文があります。また繊維の中でも水溶性繊維
と不溶性繊維では水溶性繊維の方がより過敏性腸症候群(IBS)の症状を改善させたという
報告もあるため高分子重合体・食物繊維は有効と考えられます。
また過敏性腸症候群(IBS)の方には消化管運動機能調節薬であるトリメブチンが有効であるという
論文やドンペリドンが有効であるという論文がありこれらの薬剤をうまく使用しながら症状
を取り除くことができればと思います。過敏性腸症候群(IBS)は便秘型や下痢型、混合型や
分類不能型と診断や治療にも難渋することもありますが辛抱強く診断、治療をしていくのが
結果的には早道かもしれません。

診療科案内